『ウーロン茶を飲む人は長寿である』

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ウーロン茶の広告には高名大学名誉教授の偉相医学博士のコメントに並んでもっともらしいグラフまで出ていたりする。「そうか、ウーロン茶は健康にいいんだな」と思う前にちょっとだけ疑ってほしい。

まずグラフに載っているデータは正しいのか、真面目な方法で真剣に集めた資料を間違いなくデータ処理したものなのか。80歳以上の人にインターネットでアンケートをとったら60%の人からウーロン茶を飲んでいたという回答があった、などというデータ収集はちっとも真面目ではなく、万が一にそれが正しい数字かもしれないけれどとても信頼できるものではない。こういう統計をとろうとしたときにデータが不正確になることをバイアスというが、バイアス要因は山ほどある。そのバイアスを一つずつ防止したり補正したりする地道な努力を重ね、その努力を正直に明示してあればようやく真面目な方法と呼べるものになる。バイアスをすべて防止することはできないので、防止できなかったバイアスを、例えば「プラスマイナス3%ポイント」などと表示するのがよいお作法だ。科学論文などでは予想もしていなかったバイアスを何年もあとになって指摘されることもあるようだ。

データは正しい、バイアスも検討した、精度の範囲で数字は正しいとしたら、ウーロン茶は健康に良いといっていいのか。まだだめである。相関があっても因果関係は証明できない。長寿の人が老齢になってからウーロン茶をよく飲むようになったのかもしれない。発見されていない「長寿遺伝子」があって、その遺伝子を持つ人がウーロン茶依存症を発病するのかもしれない。
因果関係を証明するには、まず性別も年齢も生活環境も食事も持病もまったく同じ人を何十人か何百人かあつめる。「まったく同じ」にすべきポイントを見落とすと山ほどあるバイアスが残ってしまう。何百人かを2群にわけて、片方は本物のウーロン茶を一生飲みつづけてもらう。他方のグループには色も味もまったく同じだが偽のウーロンもどきを一生飲みつづけてもらう。もちろんどちらの人たちにも、まったく同じ量をまったく同じ時間に忘れず飲んでいただかなくてはいけない。ある人がどちらのウーロンを飲んでいるのかは、本人には知らせない。このぐらい注意深くデータをとれば、ウーロン茶が長寿の原因になるのかがわかるだろう。

医薬品の有効性はこれに似た方法で調べているが、被験者は数十人ぐらいのことが多いらしい。バイアスなどに十分な注意を払っていればこの程度の人数ではっきりしたことがわかるし、「はっきり」の度合いもわかるように最初から計画する。

ところが内部被爆の放射線による健康被害とか、人間起源の温暖化ガスによる気候変動などをこの方法で直接証明するのは無茶である。たとえ希望者が集まっても意図して健康被害を与えるのは倫理違反だし、気候変動を何回も実験している時間が人類にはない。しかし直接でなくても間接的に証明する方法はいくつもある。

そのうちおもしろい方法のひとつに、相関の「順序」を注意深く分析して因果関係を導きだす手法がある。パールさんという人が再発見したそうだが、当人の本はまだ日本語が出ていないらしい。書評では「統計ではわからない『なぜ』の科学」とか「『なぜ』の本 – 原因と結果の新しい科学」とか紹介されているので注目したいところだ。

ところで統計に話を戻すと、まじめに集めた数字から注意深くつくったグラフがネットでも見つかる。そのひとつに本川さんという方のサイトがある。 https://honkawa2.sakura.ne.jp/index.html グラフだけが載っているのでなくコメントが付いていて親切だし、「調査統計」と「業務統計」の違いが明瞭に説明されていて、眺めていると統計一般の知識も深まる。「とりあえず検索」してみるより、こういうサイトを知っていることがいい情報への近道だと思う。