市川城次
2019年はCOP25(国連気候変動枠組条約締約国会議2019.12)に向けて、CO2排出削減の枠組みを強力に進めるよう世界中で運動が巻き起こった。こうした運動の盛り上がりにもかかわらず、COP25における合意には何の進展もなかったといわざるを得ないが、この「気候危機」をめぐる運動が概ねどのような認識に基づいて展開されているのかをまとめ、若干の問題提起と課題を示してみたい。
ここで言う「気候危機」問題は「地球温暖化」問題そのものであると言ってよい。
IPCC(「気候変動に関する政府間パネル」)は5回にわたる報告書を提出し、さらに『1.5℃特別報告書』(2018.10)を発表した。
それらの内容を要約すると
- 地球の大気、海洋の温度は確実に上昇を続けており、それは人的要因によるものである
- ここ200年間の温暖化傾向や、特に1980年以降の急激な温度上昇は、産業革命以降排出量が大幅に増え続けているCO2によるものである可能性が極めて高い。
- このまま温暖化ガス(主にCO2)の排出を続け温暖化が進むと、氷床の崩壊などの制御不能・不可逆なシステムの変化が起こることも考えられる。
* 気温上昇が進むと、有機物の分解が促進されたり、水に溶けていたCO2などが気体 となって放出されるなど、大気中の温室効果ガスの濃度が高くなることで一層の温暖化を引き起こす。これを“正のフィードバック”、“正の帰還”という。 - 「気候変動」によるリスクは増加し、その被害としわ寄せは途上国・脆弱地域・貧困層が受けることになる。
- 気候変動」のリスクを低減するためには、温暖化を1.5℃以下に抑える必要があり(2.0℃では格段にリスクが大きい)、2030年までにCO2の排出量を45%減、2050年までに実質0に減らす取り決めと実行が必要である。
* IPCCは排出量削減に向けた様々なシステム変更・移行を多角的に提言しているので、各報告書を参照のこと
地球温暖化防止を目指す世界の環境運動・団体等は、それぞれ違いはあるとしても、ほぼIPCCの報告に準拠あるいは同意している点で共通しているのではないだろうか。
これらIPCCの報告はよく出来ていてわかりやすいが、その他のあらゆる主張や理論等と同様に、そのまま鵜呑みにするというのではなく、各個人の力量において、また集団の力量において検証を試みておくことは必要だと思われる。
そこで、IPCCの報告で疑問を感じた部分と、環境運動について思うことがあるので列記してみたい。
1.IPCC 地球温暖化の評価について
・地球温暖化を示すグラフはよく知られているが、温度測定地点や測定器具が適正に設置されているか(不適切と思われる測定が多数含まれている可能性がある)。
・ヒートアイランド現象を示す地点(都市化、開発、伐採等が進んだ地域等)のデータが多数含まれているが、これはCO2が原因ではない大幅な気温上昇地域である。
< 温暖化ガス由来ではない温度上昇がデータに多く含まれている >
[疑問まとめ]
・大気、海水ともに温度上昇が起こっていると思われるが、熱そのものの発生・排出を考慮に入れていないので、温室効果ガスの寄与を大きく取り過ぎていないか。
・エネルギー消費の節約、省エネ・高効率化等、排熱を減らすことにつながる提言はあるが、排熱そのものには言及がない。ヒートアイランドにおける熱の影響はわずかであるとしている。
(原発による温排水は大きな問題を生み出す。水は比熱が大きいので、河川水・海水を温め続けることは、大量の熱をため込んでしまうことになる)
2.環境運動に関わる問題
・「地球温暖化」は、原因をめぐる諸説・温度上昇幅についての異論等はあるが、確かに起きていると考えられる。また、化石燃料に依存したエネルギー生産等によるCO2の大量排出は早急に自然エネルギーに転換し、排出量を0に近づけるべきという主張は正しい。
ただ、「地球温暖化」問題が「CO2の削減」に収斂されてしまうことには注意が必要である。「地球温暖化」問題に象徴される、止めどもない環境破壊の進行は、人類の社会・経済システムが生み出しているものであり、「気候危機」を回避する方策を社会・経済システムの変革を基本に、総合的に追求することを忘れてはならない。
一方、「気候正義」という言葉=概念は(そのまま使うかはともかくとして)、システムの変革をベースにしていると考えられ、それが世界の運動の共通認識になりつつあるという点には大いに注目すべきである。
・都市部、開発地域におけるゲリラ豪雨や異常高温などのヒートアイランドに起因する現象を、CO2由来の気候変動と混同してはいけない(原因・解決方法が全く違う)。
・ここ数年の「自然災害」を見て、気候・気象が極端化に向かっていると感じている人も多いように思うが、自分の経験(20~30年長くて50年位?)から判断するのはやや早計と思われる。マスコミの報道に惑わされずに、気象庁などがまとめている過去の災害の記録(200年以上)などを参考に考える必要がある。
・行政や企業の怠慢が大きな災害をもたらしてしまったことを見逃してはならない。
昔大きな自然災害があったところを、経済を優先=企業利益を優先して開発を許可したために、住民が大被害を受けてしまった例(広島での大雨土砂災害)や企業が経費削減のために、強度が不十分な材料を使った例(千葉での台風による送電鉄塔倒壊)など、「温暖化が原因」とばかりの、「想定外」という言い訳を許してはならない。
3.その他の課題
・大気中の二酸化炭素を直接抽出し貯蔵する技術や、光触媒などを利用してメタンなどの有機物に変換する技術などが、ビジネスチャンスとばかりに盛んに研究・開発されている。こうした動きにも目を配っておく必要があるだろう。
ただ、この種のテクノロジーの意義は認めつつも、緑の基本である「生物多様性」=「豊かな生態系」の保全・保護こそが一番重要であることを忘れてはならない。