ウクライナ「非」占領地域訪問

この記事は約5分で読めます。

F.O

私を含めて4人のグループが9月下旬(2023年)にウクライナを訪問しました。その概要を記します。

訪問したグループはどんな人々ですか

昨年(2022年)の末ごろの呼びかけに応じて集まった “ザポリージャ非武装地帯ボランティア” の居住地(国籍)は米国が多いのですが、他にイギリス・イタリア・イラン・ウガンダ・日本などから参加がありました。9月中に訪問した4人は、全部で50人近いボランティアのうちスケジュールの都合がついた人の一部です。発案したジョン・ルアーさんがたまたまワールド・ビヨンド・ウォー(WBW) の会計担当だったため、WBWにつながる人は多かったと思います。準備中に他の平和団体の名前もよく聞かれました。非暴力平和隊 (Non-violent Peaceforce)が作った資料Peace Literacy Instituteビデオをグループの “平和力” アップに活用しました。

9月に訪問した4人の他にイランとウガンダから3人が加わる準備をしていたのですが、ビザが発給されずに訪問が叶いませんでした。9月の4人のうち1人がウクライナに残り、10月も米国から第2陣の2人を加えて活動を続けました。

訪問したところはどこですか

キエフ、ザポリージャ(市)、マルハネッツ、ニコポールです。いずれもロシアの制圧を受けておらず、ほぼ自由に移動できます。マルハネッツとその先のニコポールは前線に近いため途中の道路には軍のチェックポイントがいくつかあります。そこを通過しやすくするために、グループの代表者が現地の知人からあらかじめ送ってもらった “招待状” をプリントしておきました。

キエフにはグループの仲間が住んでいます。彼はウクライナ治安組織から弾圧を受けており、会って励ます目的もありました。
ザポリージャ(市)はザポリージャ原発に近い大きな都市です。ザポリージャ原発との距離は50kmほどあり、小田原と横浜ぐらいの距離感です。
マルハネッツはザポリージャ原発からドニエプロ川を挟んで北側の対岸です。
ニコポールはやはりドニエプロ川の北側で、ここからもザポリージャ原発が見えます。
ザポリージャ原発や原発の立地するエネルゴダール市は、ロシア軍が制圧しているため入れません。

訪問の目的は

このボランティアたちが集まった目的は、ザポリージャ原発周辺に交代で武器を持たずに詰めかけて非武装地帯を確立しようというものです。IAEA(国際原子力機関)の職員が非武装で原発に派遣され、原発の軍事拠点化を押しとどめていることに共感し、準備を始めました。

IAEAやロシアとの交渉が難航したうえに、キエフに住むワールド・ビヨンド・ウォー (WBW) のウクライナ支部長がウクライナ治安組織から弾圧を受けるなどしたため、ザポリージャ原発近隣の住民と会って打開策を探る方針に切り替えました。相談相手を原発近隣住民とすることにした理由は、占拠されている原発が制御不能となって放射能を撒いたときに最初に被害を受ける人々であること、また原発のあるエネルゴダール市の市民は武器を使わずにロシアの進軍を3日間も押し返した実績があったからです。(あとの方で写真を紹介します。)

現地の状況は

まったく平静です。食料や物資も不足しているようには見えません。もちろん、平静でないこともたくさんあります。例えば、

  • ウクライナに発着する航空便がなくて、移動はとても不便
  • キエフの駅ビル入り口は軍が管理していて、空港のような荷物検査がある(ただし、駅の列車ホームへは自由に行ける)
  • 砲撃を受けて破損したビルの壁が未修理のままのところがある(キエフ)
  • ニコポールでも砲撃は受けているが、建物の損傷はかなり急いで直してしまうとのこと
  • 通訳を引き受けてくれたジャーナリストは数日前にドローン攻撃を受け、人間は怪我で済んだが車は破壊された
  • 1日に何回か警報サイレンが鳴る。しかし現地の人々は避難したりしない
  • ザポリージャ駅の出口では軍が検問していた
  • マルハネッツとニコポールでは水不足で、水道水は出るが飲めない 
    団地の仮説給水タンク
    団地の臨時給水所 同種のタンクがあちこちにあった
  • マルハネッツでは窓をベニヤで塞いでいる建物も多い(応急修理かもしれない)
  • マルハネッツでは街路灯を消してある、日没後はとても歩きづらい(夜間外出禁止となる時間は日没後よりずっと遅いらしい。)町内に1ヶ所しかない交通信号も消えていたが、消してあるのか故障なのか不明
武器を持たずに市民はどのように抵抗したのですか

ロシア軍が近づいてくる情報を受けて市当局が抵抗を呼びかけたとのことです。しかし実際のバリケードは市民が主体的に古タイヤやトラックなど活用して作りました。

市のトラック(?)をバリケードにした。背後の煙は爆発などではなく煙幕とのこと。プラウダ

ロシア軍が市内に入ろうとするとき、市民たちはロシア軍と交渉し、3日間に渡ってロシア軍には “お引き取りいただいた” といいます。

非武装の市民がロシア軍と “交渉” した。LB.ua
左が当時のドミトリョ・オーロフ市長、中央がイワン・サモデュク第一副市長
目的は達成できたのですか

20人ほどの市民と個別に会見はできましたが、打開策はまだ見つかっていません。市民の平均的関心事としては原発の危険などあまり大きく感じていないようです。非武装抵抗をテコにした原発の保護や侵略の終結を私たちは提案したいのですが、多くの市民はむしろ武力抵抗に積極的で、ウクライナ軍を支援する気持ちの方がずっと強いように見受けました。

マルハネッツでは町長とその周辺組織による支援物資の横領や土地の収奪といった腐敗政治への対応が対ロシア防衛と同じくらい重要事項となっており、住民のひとりは「2つの戦争だ」と言っていました。