税金を使って、ホームヘルパーの報酬を大幅に引き上げよう!このままでは介護サービスが受けられなくなる

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編集部

嫁が、娘が、妻が、それまでは自宅で介護していた。2000年に介護保険が始まって社会で介護する事になり、女性たちが家族から解放されると大いに期待された。しかし制度設計の甘さに加えて“介護や看護は家族が無償で”という社会の意識が根強く、介護保険制度はたった23年で崩壊状態になった。

2024年の介護報酬改定で、高齢者が年金から天引きされる保険料は2000年当初に比べると3倍にも増えるが、受けられるサービスはまた減らされてしまう。導入当初は要支援が1と2、要介護は1から5がサービス対象だったが、今年の改定では要介護1・2を介護保険から切り離す提案が出された。このままでは介護保険でサービスを受けられるのが重度の要介護3~5だけになってしまう。低額で入居できる特養も2015年以降は要介護3以上の条件があり、これでは“保険あって介護なし”“家族介護に逆戻り”である。

崩壊の原因は、低賃金と劣悪な労働環境

昨年(23年)は初めて「離職超過」が起きた。介護職を離職する人が、働き始める人より多かったのだ。その原因は介護職の低賃金と劣悪な労働条件が大きい。今年2月の高裁判決では「賃金水準の改善と人材の確保が、長年解消に至っていない事実」を認めた。この国賠訴訟は規制権限を行使しなかったとしてヘルパーが厚生労働省を訴えたものだ。しかし高裁は違法とまでは言えないと逃げてしまった。

その中で今年の介護報酬改定では在宅サービスの報酬単価が引き下げられ、現場からは「現実を知らなすぎる」と怒りの声が上がった。提供されるサービスの44%は在宅サービスで、2000年当初よりも利用者が42%も増えている。その在宅サービス報酬が2.4%引き下げられたのだ。在宅介護を担うヘルパーは時間給のうえに移動時間は無償、利用者都合のキャンセル料も無し、待機時間も無償とされている。これではヘルパーは生活できない。サービスを担うヘルパーがやめていったら、制度など成り立たない。

介護保険制度の甘さ

2000年に始まった介護保険制度にはひどい偏見が組み込まれてしまった。「介護は家庭で女性が無償で担ってきたのだから、報酬は安くてよい」という発想が露骨に見える。女性の賃金が今なお男性の70%という実態とも共通している。この偏見は女性が老後に受け取る年金にも格差を作り、介護サービスを受けられないという格差を生んでいる。

少子高齢化も見逃した制度になっている。将来は人口が減ると言われつづけて30年以上も経ち、有識者たちも危機感をもっていた。最近の人口推計では75歳以上人口が2060年まで増え続けるとされている。ここにも制度設計としての甘さがあり、その対応のために、介護保険のサービス範囲をどんどん小さくしたうえに、利用料は増やし続けている。

いわゆる「老老介護」が6割以上になっている。75歳以上同士の老老介護も4割近くになっている。この実態を無視してさらにサービス削るのでは、もはや介護といえない。

特別老人ホームなど介護現場はひどい人手不足に

特養では介護職員配置基準に基づき夜間は22人の利用者を一人の職員で見ているため、人手不足のところではツーフロアーに職員一人のところもある。この配置基準のまま2015年に特養入所基準が重度の要介護3以上となったため、さらに負担が大きくなった。介護保険施設では運営基準によって身体拘束は原則禁止だし、厚生労働省も「身体拘束ゼロへの手引き」を出している。しかし認知機能が低下した利用者が増え、職員の人手不足もあって、身体拘束が安易に行われている。これは違法との判決が高裁でも出ている。

施設と契約している地域医療機関も職住分離が普通なので、夜間の緊急事態にすぐ対応できないのが実情だ。応急対応を一人、二人の職員が担う結果となっている。

2024年度介護報酬改定は改悪で、後年度への持ち越しが多発
  • 政府の給付抑制策として、ケアマネージメント有料化(利用者の反発で27年に持ち越し)
  • 介護報酬を1.59%増したが、訪問介護の基本報酬が2.4%下がって、異論噴出。介護職の平均月収額は全産業平均より約6万円も少ないが、今回の介護報酬の改定でその差は実質広がり、さらに離職者が増える懸念がある。
  • 要介護1~2を介護予防・日常生活支援総合事業に移し、自治体事業とする(利用者の反発で27年に持ち越し)
  • 介護利用者2割負担の対象者を拡大して年収190万円以上に(現在は280万円以上、27年まで見送り)
  • 介護保険料を所得に応じて引き上げ
  • 介護老人保健施設,特養の居住費の引き上げ
介護保険の財政内訳

介護保険の財政は公費と保険料とが半分ずつになっている。国が25%、県と市町村がそれぞれ12.5%で、この合計が50%。65歳以上の1号被保険者が23%と40歳以上65歳未満の被保険者が27%を負担し、これも合計で50%になる。介護の社会化をめざすなら税金をもっと投入し、ホームヘルパーの報酬を引き上げるべきだ。