嘘と違法と強要で進めるマイナンバーカード

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猪股美恵

1 そもそもマイナンバーカードは住民基本台帳法改正から始まった

私は1999年住民基本台帳法が改正されたとき、川崎市の議員をしていました。その時からずーっと住基ネットワークに疑義を持ち続けてきました。当時は様々な市民運動からも住民票コードについては「国民総背番号制はいらない」「牛は9桁、人は11桁」「徴兵制につながる」「個人情報管理システムに不信」といった声が上がっていました。2002年8月に住基ネットの一次稼働が始まりましたが、開始時においても参加しない自治体が4自治体ありました。理由の多くは個人情報保護システムの確立が確認できないというものでした。

国会でも野党から反対の意見質問が続出しました。1999年の「地方行政・警察委員会」では、委員からの質問に対し野田毅国務大臣は「この住基ネットワークシステムは市区町村が住民基本台帳制度を主体的に運営する現行制度の枠組みを変更することはありません。このシステムは広域的に本人確認できるよう都道府県が連携して運営するものです。国が運営するものではありません」「保有される情報は、本人確認に必要な氏名、住所、生年月日、性別の四情報プラス住民票コード・変更情報のみです」「様々な個人情報を一元的に収集、管理するということを法律上認めていない仕組みです」「マッチングとか名寄せだとか目的外利用なんか一切できない法にしています」と繰り返し答弁しています

2 マイナンバーカード普及状況について

2013年“マイナンバー法”が公布、2015年9月“マイナンバー法”が改正され、預貯金口座へのマイナンバー付番、健保組合が行う特定健診情報管理にマイナンバー利用、予防接種履歴の情報連携を盛り込みました。そして2016年からマイナンバー制度が始まりましたが2017年3月のマイナンバー普及率は29.1%でした。2017年4月“マイナンバー法”を改正し、特別支援学校就学経費支弁事務情報や、生活保護関係情報などを追加しました。さらに2018年の改正では身体障碍者入所措置に係る費用徴収事務情報などを追加しました。そして2021年2月マイナンバーカード機能のスマートフォンへの搭載などの改正とともに、マイナンバー制度全般の企画立案を担うデジタル庁を設置しました。

その後普及は遅々として進まず、今年(2022年11月時点)でやっと50%を超える状況です。この間普及率を上げるために莫大な税金が使われてきました。毎年数十億円が使われ、2022年度は健保保険証利用登録すれば7500円分、公金受取口座登録すれば7500円分のマイナポイントを付加することで予算と補正額を合わせて2兆円を超える額になっています(この間のテレビや新聞でのコマーシャル等にかかった費用が含まれているかは不明。)政府の目標としては今年度中に100%にしたいと目論んでいます。その目標を達成させるために残された手段は、権力による強制しかありません。申請は任意と言いながら強制してくることは目に見えています。

3 今政府が進めている事

2014年には住基ネットを都道府県が共同運営する指定情報処理機関を廃止し、地方公共団体情報システム処理機構を設立、2015年“マイナンバー法”が制定され、今までの住民基本台帳法一部改正、公的個人認証法一部改正等が行われ、個人番号の利用範囲を“マイナンバー法”に明記しました。また同法には市区町村長は当該市区町村が備える住民基本台帳に記録されている者に対し、その者の申請により個人番号カードを交付する、と明記されました。あくまで強制ではなく、任意であるということです。

2018年同法の改正により金融機関は預貯金情報をいつでも検索できる状態で管理しなければならないとされましたが、金融機関へのマイナンバー提供は義務ではなく、任意とされました。しかし新規口座開設などにおいては、マイナンバーの告知を求めることを法律上義務と定めています。窓口へ来る高齢者などは言われれば必要と思ってしまうでしょう。

今のところマイナンバーの具体的情報提供先は税務署、地方公共団体、ハローワーク、年金事務所、健康保険組合、勤務先、金融機関です。勤務先についてはマイナンバーを提出しない場合は書面で提出しない旨提出することになっています。また配偶者がいる場合は配偶者のマイナンバーも配偶者に代わって提出を求められます。これは就職活動に不当な圧力となるのではないでしょうか。近いうちには免許証との一元化で警察も加わるといわれています。医療機関では病歴、服薬歴、特定健診結果などが入力されると精神疾患や感染症、社会偏見の残る病気等の情報も完治したとしても付いて回ります。自治体、医療機関、年金、警察、財産、預貯金これらのディープな個人情報が一元化されることとなることを便利ととるのか、危険ととるのか考えてみましょう。

マイナンバー制度をめぐっては、番号を記した書類の紛失や委託業者による漏洩など毎年200件を超える“マイナンバー法”違反が出ています。
2022年11月には、暴力団関係者から依頼を受け役所の職員が住基ネットの中から個人情報を抜き出し、漏洩したという事件がありました。いくらセキュリティー強化をしてもこうした個人情報漏洩は防ぐことができません。

先日、厚生労働省 社会保障審議会 部会(諮問機関)は2024年度秋に保険証を原則廃止してマイナンバーカードに一体化させる案を示しました。これに対し全国保険医団体連合会や全労連などから反対の意見や署名が届いた岸田文雄首相は、衆議院予算委員会で「マイナンバーカードを持たない人でも受診できるよう保険証に代わる制度を作る」と表明しました。それならば今の保険証でいいのでは?という当たり前の声が上がっています。個人でやる診療所など全国津々浦々の医療機関でマイナンバーカードを保険証代わりに使うとなると、どこでハッカー攻撃されるかもしれないし、人的ミスにより情報漏洩するかもしれません。高齢の医師等はカードリーダーの利用方法を誤るかもしれません。何よりもディープな個人情報、覆水盆に返らずです。

4 今、地方自治体で起きていること

2022年6月総務省は、来年度からの地方交付税交付をマイナンバーカードの普及率に応じて交付額を決める方針を打ち出しました。そのため私の住む那須塩原市では、職員を日曜出勤させ毎週マイナンバーカード申請窓口を開き、さらに土曜・日曜の午前10時から午後5時までスーパーマーケット前で「マイナンバーカード出張申請サポート」を開催。さらに11月からマイナンバーカードをまだ持っていない市民に向け、オンライン申請用QRコード付きマイナンバーカード交付申請書が市から送付されます。市は普及率向上を目指して躍起になっています。
考えてみると地方交付税というのは地方自治体の財源の不均衡を調整しすべての地方自治体が一定水準を維持できるように作られたものであり、マイナンバーカードの普及のために交付額を決め得るものではないはずです。

5 さいごに

 マイナンバー制度に関する情報が乏しいため表面的なことしか書けませんでしたが、マイナンバー制度に対する政府の目論見は国民を管理しやすくするために他ならないと思います。長引くコロナ禍で「特別定額給付金発送が遅れたのは情報が一元化されていないから」とか「ワクチン接種が滞ったのは情報が一元化されていないから」とか「医療機関受け入れ態勢が混乱したのは情報が一元化されていないから」など、政府の無策を棚に上げ、それらを口実にしてマイナンバーカード取得を促してきました。しかし税金は税金で完結した情報管理をすればいいし、医療は医療の枠で情報管理と地域医療ネットワークシステムを作っていけばいい事です。個人のあらゆる情報を一元的に管理するのは、いくら各情報保有機関毎に異なる符号を用いるとは言え、広範に利用されれば漏洩や不正利用によるプライバシー侵害のリスクは大きくなります。とても危険なことです。